7月 011999
 

 学校法人愛育学園設立の経過説明 (愛育養護学校だより1999年7月号より)

上村一 当時社会福祉法人 恩賜財団母子愛育会 会長 学校法人 愛育学園理事 

学校法人設立準備委員会の委員長として学校法人の設立に関わって参りました関係から、その設立の経過をご説明申し上げます。

母子愛育会は、今の天皇陛下のご誕生に当たり昭和天皇から御下賜頂いたお金を基に、母子保健と児童福祉の充実と向上を目的に、昭和九年三月に設立、初め財団法人、戦後、社会福祉法人として、今日まで産科、小児科、とくに周産期に重点を置いた病院、母子の保健指導、母子保健と児童福祉の総合研究、母子保健関係者の研修、それに養護学校、ナーサリールーム、幼稚園など子どもが健やかに生まれ育つ上での広い分野にわたって事業を展開してまいりました。

愛育養護学校は、昭和十三年、愛育研究所が設立されたときに、成長のために特別な手助けが必要な子どもたちのために設けられた特別保育室に始まり、戦後の昭和二十四年、津守先生のご努力で再開され、三十年六月に学校教育法の養護学校として都知事の認可を受けました我が国における先駆的な養護学校の一つでございます。昭和五十四年に養護学校への就学が義務化され、全国に公立養護学校が設置された中にあっても、歴代の校長先生、担当の教員の皆様の熱意と努力により、発達に遅れのある子どもたちの人間形成を重視するという理念の下に、子どもたちの気持ちを丁寧に受けとめて、子どもたちが自由にのびのびと育っていくお役に立ってまいりました。その教育は専門家の方々からも高く評価されていましたし、親御さん方が子どもたちのことを語られた本の副題が「愛育養護学校の子育て・親育ち」とありますように、保護者の皆様方からも喜んでいただいてまいったのでございます。私は三年前の八月にこの恩賜財団母子愛育会の理事長に就任したばかりでございますが、この養護学校は、総合母子保健センター、子ども家庭総合研究所、愛育幼稚園、ナーサリールームと一体となった恩賜財団母子愛育会に欠くことのできない施設だと考えてまいったのでございます。

しかしこの養護学校の経営という視点でとらえますと、極めて困難な状況が続いております。生まれてくる子どもの数が減少の一途、公立の養護学校の整備などの事情によってこの養護学校に入ってくる子どもの数が減ってまいりました。母子愛育会が社会福祉法人というため国からの補助金が受けられない。保護者の皆様方や愛育養護学校後援会の心のこもった手厚いご寄付、お力添えにもかかわらず、毎年度の決算は相当の赤字額でございました。養護学校の経営を母子愛育会全体の経営の中で考えることも、本会の基幹事業である愛育病院において、出産数の減少や立地条件などの影響によりまして患者さんの数の現象、分娩数の減少傾向が続いてその経営に赤信号という状況でございました。

この伝統のある、専門家の方々から高く評価され、お父さんお母さん方からも期待されている愛育養護学校が将来にわたって安定的に、また継続して学校教育を行っていくためには、学校教育法の本則に基づく学校として、責任体制を確立して運営することが最善の策でもあり、本来の姿であり、この際、愛育養護学校の経営を学校法人にする以外に方法はないという結論に至ったのでございます。(養護学校の認可を受けたときから都庁は学校の経営を社会福祉法人から学校法人にするよう指導されていましたが、母子愛育会の沿革などの事情もあってなかなか踏み切れず、社会福祉法人として国の補助を受けられないか文部科学省と折衝してきたのですがそういうことでは埒があかないと思いました)。そしてこのことは母子愛育会のあり方、運営について重大な事項でございまし。そこで、平成九年三月の理事会・評議員会におきまして、理事長の私から「愛育養護学校のあり方について、今年度の決算を踏まえ、各方面のご意見をお聞きしながら平成九年度中には学校法人化を含めて結論を出したいと考えている」と報告し、同年五月の理事会・評議員会におきまして、愛育養護学校の経営の「抜本的な改善のためには、本会から切り離して学校法人として運営することが最善であろうと考え、その方向で検討したいと思っておりますので、ご了承をお願い申しあげ、今暫く事務的につとめさせていただき整理をした上で役員会にお諮りし、ご審議いただくことと致しますので、よろしくお願い申し上げます」と発言いたしました。

そして平成九年六月に本会に「学校法人設立準備委員会」を設け、これと平行して東京都学事部との折衝、本会内部の事務処理を進めましたが、いろいろの問題があって、平成十年度に学校法人発足には至りませんでした。

平成十年は更に懸案を詰めて、ようやく十一月二十日、津守先生を代表に設立発起人会を開催する運びとなったのでございます。設立発起人会では設立決議の案、寄付行為の案、設立時の財産目録、設立代表者の選任、設立当初の役員及び評議員の選任などをご審議いただき、学校法人設立を決めた後、社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の理事会における諸手続きを行なった上で今年に入って学校法人愛育学園設立を申請し、都の審査、三月二日の現地調査の後、とうとう四月一日に学校法人愛育学園の認可を受け、発足の運びとなったのでございます。

母子愛育会の理事長といたしましては、恩賜財団という由緒と昭和九年設立という長い歴史の中で守ってきた財産を処分し、愛育養護学校の累積赤字を社会福祉法人の方で背負うという決定をすることは、相当に重い判断であることは確かでございますが、長い間の懸念がこの学校法人の設立によって一応の結論を出すことができたことはまことに嬉しいことでございます。三月三十一日に愛育養護学校の教員の皆さんに社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の退職の辞令を差し上げましたとき、これは他の退職の場合とはまったく違って、退くのではなく、新しい出発、未来への門出だという思いがいたしました。今の時代、学校法人の前途は相当に厳しいものがありますが、はじめに申し上げましたように学校法人発足後も、これまで同様に社会福祉法人の事業と一体(むしろ同志、志を同じくする仲間として)協力してまいる心構えでございます。